匂いというのは記憶を無理矢理にでも掘り起こすものです。
先日、家人が開けた冷蔵庫からふっと匂いがした瞬間、実家の冷蔵庫の匂いを思い出しました。
実家の冷蔵庫は、いつもひどく臭かったのです。
かつて食材だったものの残骸から発せられる腐臭です。
片親はすこぶる片付けが苦手で、それでも部屋の掃き掃除と拭き掃除は欠かさなかったのですが、どうにも冷蔵庫の片付けだけは苦手なようでした。
おかげで、冷蔵庫には消臭剤が5つも6つも入っていましたが、大して効果は発揮していませんでした。我が家の圧倒的な腐臭を前に科学技術が惨敗していたのです。
惨状を見かねたもう片親が泣きながら掃除をしていたことがたびたびあります。そのときの片親は、悔しさと情けなさがないまぜになった表情をしていました。
今の我が家の冷蔵庫は匂いません。
きっとこれが普通なんでしょう。